f字孔の作成が完了しましたら表板内面にバスバーをニカワ付けします。バスバーは、ボディーの中心線に対して魂柱と反対側の低音側にセットします。
したがって、表板を内側から見た時(バスバーをニカワ付けする時ということになりますね)は中心線の右側になります。
このバスバーは楽器の音響に大きく関ってきますので、そのセッティング位置・寸法・形状が重要な要素となります。
完成時の寸法は、現在のバイオリンでは長さ270mm・厚み6mm・中央位置(若干下方という考え方もあるかもしれませんが)で最大高さ13mmとなります。“現在の”というのは、初期のバイオリンのバスバーは現在のものより大分小さく、時代とともに演奏ピッチの上昇や楽器に大きな音量を求められるようになり(必ずしもそのように言えるわけではないかもしれませんが)、同時にガット弦からの様々な弦の変遷により楽器にかかる負荷が大きくなり結果としてボディーの構造にもしっかりしたものが要求されるようになったことによるかと思います。
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まず、バスバーの取り付け位置を決めるためにボディーに印をつけます。
アッパーバウツとローアーバウツの最大幅の長さを測り、その長さの14分の1を中心線より右側に(f字孔の方に)、アッパーバウツ、ローアーバウツそれぞれの最大幅のライン上に印します。下の2枚の画像の小さな赤い部分がその印しです。左がアッパーバウツ、右がローアーバウツの画像です。
実際の作業としては、この計測には柔らかいものさしを用いて内側の曲面に沿って計りますので厳密に考えると幅を直線的に計った結果ではありません。しかし、この印付けの際にはボディー内面にものさしがピッタリとはりついていたほうが印をつけやすいのでこのようにしています。違いは印し線の太さ以内になってしまうと思いますが、、、。
以上でバスバーの中心線からの離れ具合が決定しますが、これによりバスバーは中心線に対して少し斜めに付くことになります。
そしてまた、f字孔の上の小さい穴の端面とバスバーとの間は1mm程度の間隔が確保できていると思います。もしこの間隔がなくバスバーがf字孔の穴に被ってしまう場合は「14分の1」の方法を取らずに穴に被さらないようにバスバー上端を中心線側にセットするようにしてください。完成した楽器のf字孔の穴からバスバーが見えているということは決してありません。
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表板への取り付けの際のバスバーの位置決めの目印として、バスバーの上端(バスバー単体で考えれば上下の区別があるわけではありませんが、表板についた状態で上の方ということで)から150mmのところの中心線側の側面に鉛筆で印をつけておきます。
表板の上端から195mmのところに中心線に対して垂線を描き、この線と先ほどバスバーの150mmの印を合わせます。これによりバスバーの上下方向の位置が確定します。
因みに、この上端から195mmの中心線に対する垂線は 左右のf字孔の内側の刻みと一致していて駒のセットされる位置となります。 195 ・・・バイオリン製作において重要な数値です!!
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以上により、表板に対するバスバーの取り付ける位置が決まったことになります。
この3つのガイドに合わせながら、取付位置にバスバーが正しくニカワ付けされるようにナイフ・ヤスリ・スクレーパnなどを使ってバスバーを削っていきます。
ここで重要なことは、バスバーは表板の形状にピッタリと隙間なく合わせるのではなく、バスバーの上下の先端は表板との間に少し隙間ができるようにしておくということです。そしてこの隙間がバスバーの中心辺りで0(ゼロ)になるように徐々に小さくしていきます。最終的にニカワ付けされる時に締め付けにより完全に隙間がなくなるようにします。この両端の隙間は1mm~2mmといったところですが計測して確認するのではなく目視で「このくらい」ということで、加工時は指でバスバーを押し付けた時に表板とピタと付くことを確認しながら仕上げます。 この際、
バスバーの中央辺りを仮止めしておくと作業がしやすいです。右の画像の中央付近にある横の棒のように見えるものが仮止めとして使っている締め具です。余ったカエデ材で自作したものです。
この隙間を設ける考え方は、バスバーにより表板に変形を与えることで表板に内部的な力を発生させ音響効果を期待するということのようです。したがって、バスバーは充分な構造上の強さを持っていることが必要であることになります。